大判例

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東京高等裁判所 昭和36年(う)556号 判決

被告人 篠原庄作

〔抄 録〕

被告人が判示年月日判示横山金吾方より判示生糸菰包一個を集荷したことは被告人も捜査段階及び公判を通じ一貫して争わず、また横山金吾、横山しようの司法巡査に対する各供述調書がこれを裏付けているのである。しかるに被告人がこの生糸を何処に運搬し、如何に処分したかについての被告人の供述は幾度か変転を重ねているのであつて、被告人の司法巡査、司法警察員、検察官に対する各供述調書、原審証人若尾勝治の証言、原審及び当審公判廷における被告人の各供述に徴すれば、被告人は、昭和三十五年九月九日参考人として司法巡査に対し判示営業所内の秤の上に右包を置き事務員高野良男にその処置を依頼した旨、同月十六日被疑者として司法巡査に対し前半は運搬の途中紛失した旨後半は営業所内の秤の上に置いた旨、同月二十四日司法警察員に対し運搬の途中紛失した旨、更に同月二十八日司法警察員に対し営業所内の秤の上に置き事務員内藤勝義にその処置を依頼した旨各供述していたのであるが、同月三十日に至り前にパチンコ屋で知合つた氏名不詳者に富士宮市中里の富士加工前で売却方を依頼して渡した旨不完全な自白をなすに至り、更に同年十月八日検察官に対し事故の数日前自動車運転手で前に富士宮貨物に勤めていたことのある友人と会い運送貨物の売却方を予め依頼しておき、当日その友人宅に前記生糸包を運搬して同人に引渡したが、同人の氏名はいえない旨依然不完全ではあるが一歩進んだ自白をなし、同月十八日原審第一回公判期日において右自白をひるがえし、営業所内の秤の上に置き前記内藤勝義にその処置を依頼した旨供述し、更に当審第一回公判期日においては、当日佐野昌男を自動三輪車に同乗させて横山用方に集荷に行き、営業所帰着と共に秤の上に荷物を置き佐野昌男にその処置を依頼した旨供述しているのである。そして原審証人佐野好正、同尾関啓三、同高野良男、同内藤勝義、同佐野昌男、同佐野光枝の公判証言又は証人尋問調書によれば、被告人は本件事故発生約十日後横山方よりの問合せにより事故が発覚した際判示営業所長である佐野好正に対し判示日頃横山方から本件生糸を集荷した事実を否定しながら、横山方での首実見の結果右事実を認めるに至つたこと、その後判示会社の事故調査係尾関啓三に対し当初は営業所内の秤の上に置き前記高野良男に処置を依頼した旨陳述していたが、事件が警察の手に移り、被告人が前記のように九月九日参考人として司法巡査の取調を受けた翌日である同月十日に至り運搬の途中紛失した旨陳述を変更し、その旨の自認書を作成したこと、判示会社においては、各地にある営業所全般に亘り綿密に照会調査を遂げたが、本件生糸につき誤積発送等の事実のないことが判明したこと、被告人が前記のように処置を依頼したと供述する相手方である高野良男、内藤勝義がいずれも被告人から右のような依頼をされた事実を否定し、且つ当日被告人が本件生糸を営業所内に搬入したのを目撃した人物が一人もないことを認めることができ、また原審検証調書により認められる営業所内の状況に徴れば、本件生糸のような相当重量のある貨物が事務員の看守の眼をかすめ第三者により窃取されるものとは到底考えられないのである。そして原審は原判決の挙示する証拠によつて認められる叙上の諸事実乃至状況を総合判断して判示事実を認定したものと解せられ、その判断はまことに相当であるというべきである。

そして前記のような被告人の捜査段階における供述変転の経緯、未だ真実全部を吐露したものとは認められない被告人の司法警察員及び検察官に対する所論供述調書の記載内容自体及び原審証人若尾勝治の証言に照らせば、被告人の司法警察員及び検察官に対する自白が、所論のように、捜査官の鋭い追及に基く不任意のものであるとか、或いは捜査官がポリグラフの使用効果を悪用したことによる心理的強制の結果なされた供述であるとは認められないし、その他記録を精査するも右自白の任意性に疑のあることを発見できない。また右各調書は、被告人が判示生糸を集荷した日富士宮市内において何人かに売却方を依頼して引渡したという限度においては充分信憑し得るものであると認める。

次に原判決が本件生糸引渡の時間、場所、相手方の氏名、売却の価格を具体的に明示していないことは所論のとおりであるが、有罪判決における「罪となるべき事実」を判示するにあたり、犯罪の日時は犯行の同一性を特定し得る程度に、また犯罪の場所は裁判管轄を明らかにし、日時方法等と相まつて犯行の同一性を特定し得る程度に、それぞれ判示するをもつて足り、また横領罪における不法処分の相手方の氏名、価格の如きは犯罪構成要件に属しない事項であつて、もとよりこれを明示するを要しないのであるから、所論指摘の原判決の判示は業務上横領罪の判示として欠くるところはなく、前記のように、被告人が処分先を具体的に自白しなかつたため、捜査当局の苦心の捜査にもかかわらず、賍物を発見するに至らなかつた本件において、賍物の処分先等につき立証し得なかつたからといつて、所論のように、原判決に審理不尽乃至理由のくいちがいの違法があるというのは当らない。

(渡辺辰 司波 秋葉)

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